歯周病菌と全身のつながりって?

近年さまざまな研究が進められた結果、歯周病と全身疾患についての関係性が明らかになり始めました。主だった疾患と、その関わりを実証したエビデンスを紹介します。

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1.全身疾患との関わりができる背景

中等度から重度の歯周病患者さんには、総面積が約20㎠にも及ぶ歯周ポケットが広がっています。これはたとえるなら、手のひらサイズの傷が慢性的に広がっている状態。
もしこの大きさの傷が目に見えていれば、すぐに治療に移るでしょう。しかしこの傷は歯肉縁下にあるため、見過ごされてしまいます。そのため増殖した細菌や細菌産生物質が体内・血管に入り込み、さまざまな臓器に影響を与えるのです。

2.糖尿病

どんな病気?

糖尿病とは、血液中の糖の量を調節するインスリンの分泌や働きが悪くなり、血糖値が高い状態のままになってしまう病気です。症状を放置すると、神経や腎臓、目に障害が起きたり、動脈硬化による心筋梗塞などにつながります。そのため、患者さんは血糖値のコントロールが欠かせません。

◆研究データ

糖尿病患者の歯周病治療を行なったところ、血糖コントロールの指標となるHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)の値※が改善されたという報告が複数挙がっています。
※HbA1c判定の目安
5.6%未満…正常
5.6~5.9%…要注意
6.0~6.4%…糖尿病が否定できない
6.5%以上…糖尿病

一方で歯周病に罹患した歯周組織から生産されるサイトカインが、血管内のインスリンの機能を低下させることによって、糖尿病を悪化させていることが明らかにされています。歯周病と糖尿病は双方に影響しており、医科と歯科の連携が大切です。
また、糖尿病だと出血が止まりにくいので、普段の歯科治療も注意が必要です。

3.誤嚥性肺炎

どんな病気?

唾液や食物が気管に入った際、通常であればむせて排出できます。しかし嚥下機能が低下した高齢者の場合はそのまま吸引してしまい、細菌が肺まで入り込んで炎症を起こすことに。発熱、咳といった肺炎の症状が乏しく、気づいたときには重篤な症状になっていることも多い病気です。

◆研究データ

特別養護老人ホームの入居者を対象に、口腔内細菌と誤嚥性肺炎の関係性を探る無作為臨床試験が行なわれました。試験は定期的に歯科医師・歯科衛生士が口腔ケアするグループと、従来通り自分でケアをするグループの2つに分けて実施。2年間でどれだけ肺炎が発症するか調べたのです。すると、自分でケアするグループがもう一方と比べて4割以上多く肺炎を発症したという結果に。口腔ケアの重要性とともに、その関係性が明らかになりました。

4.肥満

どんな病気?

正常なときに比べて体重が多い、あるいは体脂肪が過剰に蓄積している状態。肥満になるとインスリンの分泌状況や働きに異常が生じ、糖尿病や高血圧、脂質異常症につながります。

◆研究データ

歯周病菌が出す毒素・リポ多糖をマウスの皮膚下に埋め込んだ結果、肝臓に脂肪が沈着し体重が増加。高脂肪のエサを与えると肥満が進行しました。ところが無菌のマウスにも同様のエサを与えたところ、こちらは体重の増加が起きなかったのです。

5.認知症

どんな病気?

認知症とは脳機能で障害が起こり、認識する・記憶する・判断するといったことができなくなる状態。アルツハイマー病は、その症状を引き起こす疾患の1つです。

◆研究データ

アルツハイマー病のマウスに歯周病菌を感染させたところ、歯周病を発症したマウスの「アミロイドβ(アルツハイマー病原因分子であるタンパク質)」が増加。記憶学習能力の低下が確認されたのです。

6.早産・低体重児出産

どんな病気?

早産は「妊娠22週以降37週未満の分娩」、低体重児出産は「2500g未満の新生児出産」と定義されています。早産や低体重で生まれてきた子どもは、さまざまな病気にかかりやすいのが特徴。新生児集中治療室(NICU)での治療が必要になる場合が多くみられます。

◆研究データ

早産妊婦の血清を調べたところ、同じ妊娠週数の妊婦と比べて炎症性物質の量が多いことがわかっています。

※歯周病との関連が示唆されている一方、反論研究もありエビデンスは不十分。今後の追加研究が求められています。

7.動脈硬化

どんな病気?

動脈硬化は動脈の壁が厚くなったり固くなることで、血管本来の構造が崩れて働きが悪くなる病気の総称です。血管が固くなり、内膜に脂肪分がたまると血管が狭くなって血流が悪くなります。さらに進行して動脈が詰まると、その先にある臓器が影響を受け機能が低下。これが心臓の血管で起きれば心筋梗塞、脳で起これば脳卒中につながるのです。

◆研究データ

歯周病患者で心冠状動脈のバイパス手術(詰まった動脈の先にバイパスをつくる手術)を受けた人の血管壁を調べたところ、約25%の人から歯周病菌が見つかりました。さらに歯周病が重度の方ほどP.gingivalis等の菌の検出率が高いことも判明しています。

※歯周病との関連が示唆されている一方、反論研究もありエビデンスは不十分。今後の追加研究が求められています。

おさらい

  • 歯周病と全身疾患の間には密接な関係がある
  • 歯周病をきっかけとする細菌や毒素が体内に侵入し、各臓器に影響を与える
参考文献

1.全身疾患との関わりができる背景)ビョルン・クリンゲ/アンダース・グスタフソン『トータルペリオドントロジー』 発行元オーラルケア

2.動脈硬化)Ishihara K, et al. Correlation between detection rates of periodontopathic bacterial DNA in carotid coronary stenotic artery plaque and in dental plaque samples. J Clin Microbiol, 42:1313, 2004.

3.誤嚥性肺炎)Yoneyama T,Yoshida M,Matsui T,SasakiH.Oral care and pneumonia.Lancet 1999; 354(9177):515

4.糖尿病)Iwamoto Y, et al. The effect of anti-microbial periodontal treatment on circulating TNF-α and glycated hemoglobin level in patients with type 2 diabetes. J Periodontol. 72:774, 2001.
Teeuw WJ, et al. Effect of periodontal treatment on glycemic control of diabetic patients:a systematic review and meta-analysis. DiabetesCare, 33:421, 2010.

6.早産・低体重児出産)Hasegawa K, et al. Associations between systemic status, periodontal status,serum cytokine levels, and delivery outcomes in pregnant women with a diagnosis of threatened premature labor. J Periodontol,74:1764. 2003.

7.肥満)Cani PD, et al. Metabolic endotoxemia initiates obesity and insulin resistance. Diabetes, 56:1761, 2007.