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  • 予防の考え方

カリエスのプロセスを知ろう

カリエスは「歯に穴があいた状態」ではなく、「歯に穴があくまでのプロセス」を指す言葉。その長いプロセスを学ぶことで、進行を食い止めるヒントが見えてきます。

むし歯は“細菌感染症” 

カリエスを引き起こす細菌であるミュータンス菌。これは、生まれたばかりの赤ちゃんのお口には存在しません。ミュータンス菌は風邪やインフルエンザと同じように、すでに菌を持っている人から人へ感染するもの。だから、むし歯という病気は“細菌感染症”なのです。

しかし細菌に感染したからといって、いきなり歯に穴があくわけではありません。口腔内で影響を及ぼすには、「感染」するだけでなく「定着」する必要があります。そして定着する際に、細菌にとって家のような存在となるのが“歯”!

定着時期についてはたくさんの研究があり、生後1931ヶ月が特に気をつけたい時期だと言われています(通称:感染の窓)。この時期に感染・定着しないようにすれば、健康な口腔内を維持しやすくなるのです。

感染・定着を防ぐアイデア
  • 感染源になりがちな家族のミュータンス菌を減少させる
    (だ液検査を受けてもらいリスクに合ったケア方法を実践する、来院回数を増やすなど)
  • 子どもに与える甘いものは、ショ糖ではなくキシリトール入りのものにする

ミュータンス菌が不溶性グルカンと酸を排出

では、口腔内にミュータンス菌が定着した場合は何が起こるでしょうか。この細菌は食べ物や飲み物に含まれる「糖分」を栄養にして暮らします。そして糖分を摂取した後は、「不溶性グルカン」と「酸」を排出。それぞれ違う方向から、口腔内に影響を及ぼします。

不溶性グルカンを足がかかりに、バイオフィルムが誕生

ネバネバしている不溶性グルカンは、細菌たちが歯面にくっつくのを手助けします。集まった細菌たちはスクラムを組んで膜を張り、あっという間に住処を形成! これがバイオフィルムです。

バイオフィルムの恐ろしさは、その増殖力にあります。
下の写真は、バイオフィルムがどのように形成・増殖するか調べたもの。3日目からグンと厚みが増しているのがわかります。

唾液や歯ブラシが届かない部位は、 3日目以降細菌数が増えるので要注意。 意識してケアす ることが大切です。

バイオフィルムを取り除くアイデア
  • 染め出しを行ない、バイオフィルムが残りやすい部位を把握する
  • 部位に合ったケアアイテムを選ぶ

酸によって、歯の表面が溶け出す

一方ミュータンス菌から排出された酸は、歯の表面からリン酸カルシウムなどの無機質を溶け出させていきます(脱灰)。

もちろん、これだけでは歯に穴はあきません。溶け出した無機質を元に戻す力(再石灰化)が、唾液に備わっているからです。口腔内では脱灰と再石灰化がシーソーのように繰り返されています。

再石灰化の力があるにも関わらず、カリエスが進行してしまうのは「糖の摂取頻度が多く、脱灰ばかり起きている」「そもそも再石灰化の力が弱い」などが原因と考えられます。患者さんの原因に合わせて、対処法を探っていきましょう。

脱灰を減らすアイデア
  • 「ダラダラ食い」「ちびちび飲み」→「まとめて食べる」に
  • 変えられる習慣を探す(ジュース→お茶に変えるなど)
  • 唾液がよく出るように、噛む練習をする

むし歯の原因は一人ひとり違う

カリエスのプロセスを見ていくと、歯が溶けるまでにさまざまな要因が絡み合っていることがわかります。ミュータンス菌、バイオフィルム、糖分の摂取頻度、唾液の量や質、そして歯質や歯並び……。

健康な歯を守っていくには、数ある要因の中から“その人にとって何が一番の原因か”を探ることが大切です。上手にプラークコントロールができているけれどむし歯を繰り返すという方は、磨き方以外にリスクがあるはず。一人ひとりのリスクに合わせた対策を見つけましょう。

一人ひとりのむし歯の原因を探るアイデア
  • 口腔内をしっかりチェックする(染め出しなど)
  • 患者さんへヒアリングをする(問診、食生活アンケートなど)
  • だ液検査をする
おさらい
  • むし歯は人から人へ移る細菌感染症
  • バイオフィルムは3日目から急増するので要注意
  • 糖の摂取頻度にも注目
  • 患者さん一人ひとりのむし歯の原因を探ることが大切
参考文献

仲井雪絵.2011年.『「マイナス1歳」からはじめるむし歯予防』.
ベンクト・オロフ・ハンソン/ダン・エリクソン.2014年.『スウェーデンのすべての歯科医師・歯科衛生士が学ぶトータルカリオロジー』.
ペール・アクセルソン.2009年.『本当のPMTC その意味と価値』.
関山牧枝.2017年.『むし歯と歯周病の「病因論」』.

発行元はすべてオーラルケア

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