“患者が理解できる”を第一に ダグラス・ブラッタール
細菌の数や好きな食べ物、生活習慣など、むし歯はさまざまな要因が絡み合って発症します。この“一人ひとり異なる要因”を患者さんが理解できるように、尽力したのがダグラス・ブラッタールです。
1.研究者だけが知っていても意味がない
スウェーデンのマルメ大学で、歯に関する微生物や免疫の研究をしていたダグラス・ブラッタール。たくさん論文を書いて世に発表してきましたが、次第にこう考えるようになります。
「“なぜむし歯ができるのか”について山ほど論文を書いてきたけれど、患者さんが理解できなければ意味がない!」
歯を守るために毎日ケアするのは患者さん自身。いくら研究者や歯科医療従事者がむし歯の原因を理解していても、本人が知らなければ意識や行動は変わらず、結果も堂々巡りになってしまいます。
では、患者さんにカリオロジーを理解してもらうにはどうしたらいいのでしょうか。
難しいことを難しく言うことは誰にでもできます。難しいことをさらに難しくして混乱させる人もいます。だからこそ、ブラッタールは「シンプルにわかりやすく伝えること」の意義を感じました。
「研究者である私が考えたことを俯瞰の目で見て、患者さんのレベルにまで自分が下りて、患者さんが歯科医療従事者と同じようにカリオロジーを理解できる仕組みをつくりたい」
こうしてツールの開発をスタートさせたのです。
2.一目でピンとくるツールを開発
“誰でもカリオロジーを理解できるように”。
そんなブラッタールの哲学のもとつくられたのが、細菌の量や唾液の質が一目でわかる『デントカルト』と、そのデータから一人ひとりに合わせたむし歯の要因を示す『カリオグラム』です。
なぜむし歯ができるのか、自分の場合は何が要因なのか、どうしたら防げるのか。ビジュアルを多用し、内容を徹底的にシンプルにする工夫をこらしたのです。
たとえば『デントカルト』は、目に見えない細菌を保温してコロニー化。自分の細菌が多いのか少ないのか、一目でわかるようになっています。数値で「細菌が10万の何乗います」と言われてもなかなかピンときませんが、これなら一目瞭然ですよね。
日本ではデントカルトとカリオグラムが1989年に導入されています。以来多くの医院で活用され、患者さんの意識を変えてきました。
「治療さえしてくれればいい」「むし歯になるのは仕方ない」から「将来のために歯を守りたい!」へ。カリオロジーを理解することが患者さんの気持ちと行動を変えると、ブラッタールは証明しています。
Douglas Bratthal
ダグラス・ブラッタール
元WHO(世界保健機関)顧問。スウェーデン王立マルメ大学歯学部名誉教授。個々人で異なる将来う蝕になるリスクをビジュアル化し、発症と進行を防ぐ予防プログラムの構築方法を確立した細菌学者。WHOが採用した世界標準の唾液検査キット『Dentocult(デントカルト)』と『Cariogram(カリオグラム)』の開発者。