30年間歯を守った研究 アクセルソン博士、ブリギッタ女史

スウェーデンで30年にわたって行なわれた『成人に対する長期予防臨床研究』。ここで、97.7%の確率で歯が守れると立証したのが、歯科医師ペール・アクセルソン博士と歯科衛生士ブリギッタ・ニーストレン女史です。彼らの研究からは、現代の日本でも活かせる学びがたくさんあります。

index

1.研究の始まりは、“リスク部位”への興味

30年間の研究が行われる前、1970年代のスウェーデンではむし歯にかかる人がたくさんいました。当時開業医だったアクセルソン博士は、多くの口腔内を診るなかでこんな疑問を持つようになります。

「むし歯や歯周病はなぜある部位に集中して発症し、ある部位には発症しないのか」

むし歯や歯周病は決まった部位にできやすい。しかもその部位は、年齢・性別問わず共通している。そう気づいた彼は、「プラークが停滞しやすい場所がある一定のパターンに限られているのなら、そこを“リスク部位”としてフォーカスした清掃を行なえばよいのではないか」と仮説を立てました。口腔内全体ではなく、むし歯や歯周病になりやすい部位を集中的にクリーニングすることが、歯を守るために必要なのではないかと考えたのです。これが臨床研究の始まりでした。

2.30年間で失われた歯の本数、平均0.6本

1972年、アクセルソン博士はカールスタッド市に住む375名を対象に研究を始めました。定期的に来院してもらい、大きく分けて以下の3つを行なったのです。

●「どこがリスク部位か」を共有
●適切なリスク部位のセルフケアの方法をレクチャー
●リスク部位のバイオフィルムの除去

その結果、30年の間に彼らが失った歯は平均で0.6本!

しかも喪失の原因は歯や根の破折で、むし歯や歯周病で失った人は一人もいなかったのです。これによりカールスタッド市は予防歯科実験都市と呼ばれ、むし歯減少率の世界記録を達成しました。

3.歯を守れると証明した歯科衛生士

こうして「適切なケアによって歯は守れる」と証明したアクセルソン博士。彼は30年間の研究を通じて、改めて歯科衛生士の重要性を実感しました。患者さん一人ひとりに合った教育をし、適切なクリーニングを行なったのは歯科衛生士だったからです。

では、アクセルソンのクリニックで働いていた歯科衛生士は、具体的にどのように患者さんと向き合っていたのでしょうか? 彼の研究を支えてきた歯科衛生士ブリギッタ・ニーストレン女史は、気を付けていたポイントを4つ教えてくれました。

●リスク部位を把握し伝える

「リスク部位を伝えるのは最重要ポイント。部位によって選択する道具も変わってきます」

●伝えたことは必ず紙に書いて渡す

「最初から多くの情報を与えないように、伝えたことは必ず紙に書いて渡します」

●患者さんにできるだけ話してもらう

「指導というとどうしても私たちから話すイメージがありますが、患者さんにできるだけ話してもらってコミットさせることがポイントです。口腔内だけではなくその患者さんの状況まで診ておく必要があります」

●使いやすい道具を一緒に選ぶ

「患者さんに合うものを一方的に選択するのではなくて、患者さんと一緒に決めていくんです。患者さんの口腔内・状況を十分に把握しているからこそ、その患者さんに合わせて適切なものを選ぶべきです」

ブリギッタ女史のこうした努力のおかげで、スウェーデンで歯を失う人はほとんどなく、次第に歯科衛生士は今や憧れの職業へ。資格保有者のほとんどが現役で、60歳を過ぎて働き続ける方も珍しくありません。

最後に、アクセルソン博士が歯科衛生士に関して述べた言葉をご紹介します。

「患者さんが長期的に健康な歯を維持していくため、メインテナンスに通う意味や正しいセルフケアの方法を教育することは、最もハイスタンダードな歯科医療。歯科衛生士が一人ひとりのリスクに基づいたケアを十分に教育すれば、患者さんは質の高い医療とは何かを自分自身で理解するようになる。つまり患者さんにとっても歯科医院の経営においても、歯科衛生士はなくてはならない存在ということだ」

(参考)プロフィール

Prof. Axelsson D.D.S.,ph.D.
ペール・アクセルソン博士

元スウェーデン・イエテボリ大学歯学部教授。PMTCの生みの親。1960年に王立ストックホルム大学歯学部卒業後、王立イエテボリ大学歯周病学教室にてリンデ教授に師事し、1978年にカールスタッド市歯科保健センター所長と歯科衛生士学校校長を兼務。スウェーデンの予防歯科を牽引してきた。

Birgitta Nystrom
ブリギッタ・ニーストレン女史

スウェーデンのマルメ大学歯科衛生士学校を卒業後、アクセルソンが開業する予防歯科クリニックの勤務。30年にわたる長期研究にも携わり、世界で初めてPMTCを行なった。

参考文献

ペール・アクセルソン『本当のPMTC その意味と価値』 発行元 株式会社オーラルケア