前編はこちら。
ただのビジネスではない意義のある仕事
1970年代にハイドロキシアパタイトと出合って、むし歯予防の薬用成分となったのが1993年。この約20年間は、楽しいだけではありませんでした。やっぱり焦ります。長い間訴求できなくて、ほとんど売り上げがないのに経費ばかり出ていくんですから(笑)! 銀行は「何やってんだ」ってなるし、社員から「もうやめてくれ」と言われたこともある。それでも続けられたのは、「この研究はただのビジネスじゃない、社会的意義があることなんだ」と確信していたからです。
歯みがき剤の開発を進めるなかで、日本の歯科の現状をよく耳にしていました。むし歯ができてから治療すること。予防歯科といえばフッ素を塗ること。そのフッ素すら、日本ではあまり普及していないこと……。とにかく歯科の状況があまり良くないと知ったんです。
ハイドロキシアパタイトをうまく活用すれば、この現状を変えることができる。そう気づいて、ますます研究にのめり込みました。フランスワインを売っていたときは、「これを飲んで何かいいことがあるんだろうか」と考えたこともありましたけど(笑)。ハイドロキシアパタイトは予防文化の水準を上げることができる、世の中のためになるものだと思うと、売り上げがなくても頑張れたんです。
歯みがきは、人生を変えるもの
むし歯予防の薬用成分となった後、「芸能人は歯が命」のテレビCM(※3)をきっかけに歯みがき剤は爆発的に売れていきました。1年分の歯みがき剤が1週間で売れたほど! もうびっくりでした。
そのとき、消費者の動きを見て学んだことがあります。それは、「歯のケアはただむし歯を予防するものではないんだ」ということ。みなさんが望んでいるのは、変身すること、人生が変わること、向上すること。この歯みがき剤はそれができると示せたから売れたんです。
自分にとっても大きな発見だったし、今まで歯みがき剤はむし歯を防ぐものとだけ思っていた人たちに、「歯みがき剤は化粧品と同じで夢のある商品なんだ」と気づいてもらえたのは、大きな功績だったんじゃないかな。
ただ、そのときはCMだけが独り歩きしてしまって、作用機序に納得して購入してくれた人が少なかったんです。せっかくいいものなのに、このままだとブームで終わってしまう……。そこで今度は、本当に価値を理解してくれる歯科関係者に売っていくことにしました。株式会社オーラルケアさんと手を組んで、歯科医院へ広めることにしたんです。
この方向転換はすごくよかったです。予防に熱心な歯科衛生士さんから、一般の方へ広く伝わっていった。当初の「予防文化の水準を上げる」というゴールにグッと近づきました。
※3 当時の歯みがき剤はフッ素入りが主流。ハイドロキシアパタイト入りのものはどの店でも扱ってくれなかったと言います。そこで会長が考えたのが、「店ではなく消費者に売る」という戦略。消費者から薬局へ、薬局から問屋へ、そして(株)サンギへ注文が届く。この発想があたり、CMの後は商品が爆発的に売れました。
口の中だけじゃなく、全身の健康のために
今後のことはもう、社員に任せていくつもり。先日の社員総会でも、ロシア文学を例に出してこんな話をしたんです。
ゴーリキーの『母』という作品では、主人公の青年がデモ隊を組織して赤旗を持って歩いていきます。すると軍隊が発砲してきて青年は倒れてしまう。そこに彼の母が飛んできて、息子の倒れた体に取りすがることなく、赤旗を持って前進していく。
物語はここで終わるんですが、「この赤旗が私にとってはハイドロキシアパタイトなんだ!」と力説しました。私はもう年なので、旗を持ったまま倒れるかもしれない。でも私の体に取りすがらないで、このアパタイトの旗を持って前進してくれって。みんな感動していましたよ! 嘘か本当かわからないけど(笑)。
自分としては、今後ハイドロキシアパタイトを全身疾患の予防につなげたいと考えています。歯周病菌と全身疾患のつながりって騒がれているじゃないですか。この素材には細菌を吸着除去する作用があるので、うまく活用できたらいいなと。
歯をみがくのは単に歯をきれいにするためじゃなくて、健康になるためのもの。日本人の健康を守るために、これからも走り続けます。