科学っ子だった私が出合った歯を修復する成分
もともと、私は科学・物理・数学が好きだったんです。成績もそこそこ良かったので、将来は科学者に! と思っていました。活発な子でサッカーをやっていたんですけど、やりすぎたのかなぁ。体調を崩してしまって……。これでは体力のいる研究は無理だなと、科学者は諦めて英語教師の仕事に就いたんです。
そのうち体が丈夫になってきたので、今度は英語力を活かせる商社の貿易部に。さらに自分でゼロから何かを始めたくなって、株式会社サンギを立ち上げました。1974年のことです。最初はフランスワインなんかを扱う貿易商社でした。海外から特許取得済みのアイディアを買って日本で売ったりもしていたのですが、その中にNASA(米国家航空宇宙局)のこんな特許があったんです。
「無重力空間の過酷な環境下で宇宙飛行士の歯を守るため、その主成分ハイドロキシアパタイトを補給して修復する」(※1)
聞いたことのない名前でしたけど、歯を修復する(※1)っていうのがおもしろいじゃないですか。そこで「ハイドロキシアパタイトをそのまま歯みがき剤に入れたらどうだろう?」っていうアイディアがわきました。もともと科学が好きでしたから、これは試してみようと会社で研究するようになったんです。
当時友人の中に大学の講師や准教授がいて、ハイドロキシアパタイトに詳しい人もいたので、いろいろ教えてもらいました。ちっちゃな製造工場もつくって。実験器具、測定器、電子顕微鏡なんか全部揃えました。
そんなふうに研究を重ねて数年。初めて「ハイドロキシアパタイト配合歯みがき剤」を世に出すことができたんです。1980年のことでした。
※1 無重力の環境下で宇宙飛行士の歯を守るため、NASAは歯と骨の主成分ハイドロキシアパタイトを補うさまざまな研究を進めていました。この特許は、「リン酸カルシウム(ハイドロキシアパタイトの前駆体)と唾液を反応させることで、ハイドロキシアパタイトを生成する」というものです。
小学校で臨地研究を実施
ただ、このときまだハイドロキシアパタイトは「薬用成分」ではありませんでした。「薬用成分」でないと、「むし歯の予防に効果がある」と宣伝できないんですね。なので、売り方も化粧品の歯みがき剤というカテゴリーになってしまって。そこで今度は、有効性をきちんと証明するための研究を始めました。
一番大規模だったのは、小学校での臨地研究です。いくら研究室でのデータがあっても実際人に効かないと意味がないということで、一緒に研究をしていた大学の先生たちから小学校にお願いしてもらいました。そして、生徒を「ハイドロキシアパタイト歯みがき剤を使う子」と「使わない子」に分け、どう変化が出るか見たんです。
1年後にチェックすると、ハイドロキシアパタイトを使わなかった子は40%くらい新しいむし歯が発生したのに対し、使っていた子はほとんど発生せず。有意差がはっきり出ていました! 当時「予防はフッ素じゃないと~」と言っていた歯科医師もびっくりしていましたね。最終的に3つの小学校で実施させてもらいましたが、どこも結果は一目瞭然。この臨地研究を通じて、有用性が確認されました(※2)。
これだけ臨床のデータがあったら当時の厚生省も納得です。たまたまっていうことはありえない。これは許可せざるを得ないっていうことで、1993年に「むし歯予防の効果がある」薬用成分となり、ほかのハイドロキシアパタイトと区別するため「薬用ハイドロキシアパタイト」と名づけました。ようやくしっかり宣伝できるようになったんです。本当に長い道のりでした。
※2 一番長いケースでは、「1年生が6年生になるまで6年間の経過を追った」という佐久間会長。そのおかげで、膨大なデータが集まりました。