患者さんに「伝わった」のがわかって、うれしかった
ーー 歯科衛生士になったばかりのころは、どんなふうに仕事に向き合っていましたか?

昔は全体的にやらされている感があって、TBIとかもめっちゃ嫌でした(笑)。頑張って説明して、サラリーマンに「ハイハイ」とあしらわれたことも。TBIってブラッシング“指導”なので、「こんな小娘が指導なんておこがましい」という気持ちもありました。
ーー 仕事を「楽しいかも」と思えるようになったきっかけはありますか?

2件目に勤めた医院の先生が勉強熱心で、講演会やセミナーにたくさん連れて行ってくれたんですね。最初は勉強なんて面倒くさいと思っていたんですけど、知識がついたら自信を持って患者さんと話せるようになったんです。私が言ったことに対して「なるほどね」って納得してもらえることも増えてきて。この「伝わった」という感覚がすごくうれしかった。「私やるじゃん!」って思いました。そこから仕事が楽しくなっていった気がします。
自分からセミナーに参加したり、本を読んで勉強するようにもなりました。

リアルなお話で、「やってみようかな」を引き出す
ーー 最近学んで「いいな」と思ったことはありますか?

数ヶ月前に読んだ本に、「人の気持ちを動かすときはリアリティのある話をするといい」と書かれていたんです。なるほど! と思い、患者さんに実践しています。
ーー 具体的にどんなことをされるんですか?

患者さんに、他の患者さんのリアルなエピソードを紹介するんです。
たとえば、「フロスを使ってみたけど面倒くさくて続かなかった」という患者さんがいらっしゃったとき。歯磨きと一緒にやろうとして億劫になる方が多いので、他のタイミングで行なっている方のお話をしました。
「お風呂でしている方もいらっしゃいましたよ。フロスをピッて切ってどこかに置いておいて、身体を洗ってから湯船でやるそうです」
こうやって他の患者さんのリアルなお話を紹介すると、「やってみようかな」「私も頑張ろう」と考えてくれる方が多いです。
ーー いい変化が起こせているんですね!

そうなんです! 臨床現場で働いていると、学んだことをすぐに実践できるのがいいですよね。それで「どうかな?」って患者さんの反応を見るのが楽しいし、いい変化が起こせたらうれしい。歯科衛生士って、自分のやり方次第でいくらでも楽しめる仕事だなと思います。

どんな環境でも、大切なのは目の前の患者さんに向き合うこと
ーー お話をうかがっていると、いきいき働いている様子が伝わってきます。これまで「仕事がつらい」「辞めたい」と思ったことはなかったのでしょうか?

何度も何度も何度も何度もありますよ(笑)。
歯科衛生士の仕事って、環境によってできること、できないことがありますよね。たとえば私は指巻きフロスの必要性を感じていますが、院長先生は柄付きフロス派。担当の患者さんには指巻きを勧められても、医院全体で積極的に提案するのは難しいです。
昔はこういうことをつらいと感じることもありましたが、歳を重ねて、経験を積んで、いい意味で周りの環境が気にならなくなりました。私は私、先生は先生。私は目の前の患者さんに誠実に向き合おうと考えるようになったんです。
そうやって割り切って考えるようになってから、あまり「仕事がつらい」とも思わなくなりました。
ーー 仕事への向き合い方、とても勉強になります! 最後に、山崎さんが毎日頑張れている原動力となるものがあれば教えてください。

やっぱり、患者さんの存在ですね。
仕事に行くときは「今日も淡々と働こう」と思うんですけど、実際に患者さんに会って「あらー!」って笑顔で話しかけられたら元気になっちゃう(笑)。いろんな世代の方とお話できるのが楽しいですし、私のほうが勉強させてもらうこともたくさんあります。
ーー ありがとうございました。
<歯科衛生士・川田の編集後記>
実は山崎さん、ご主人が営む酒屋さんを週に何度か手伝われている、「酒屋の女将」でもあります。本やセミナーと同じように、酒屋の仕事で得た学びも歯科医院で活かしているのだとか。そのパワフルさに、お会いするたびに元気をもらっています。
歯科衛生士の仕事は思い通りにいくことばかりではありません。でも、山崎さんと話していると「もうちょっと頑張ってみようかな」と思える。その気持ちをタフトくらぶ読者のみなさんにもおすそ分けしたく、今回インタビューをさせていただきました。この記事を読んだ方が、少しでも元気に仕事と向き合えるようになったらうれしいです。