カリオロジーの大きな流れを知ろう

カリエスは「歯に穴があいた状態」ではなく、「穴があくまでのプロセス」を指した言葉。
その長いプロセスを学ぶことで、進行を食い止めるヒントが見えてきます。

index

1.むし歯は“細菌感染症”

生まれたばかりの赤ちゃんのお口には、ミュータンス菌が存在しません。この細菌は、風邪やインフルエンザと同じように、すでに菌を持っている人から人へ感染するもの。だから、むし歯は“細菌感染症”なのです。

細菌が口腔内に影響を及ぼすには、感染だけでなく定着する必要があります。そしてこの定着に必要な、細菌にとって家のような存在が“歯”! つまり生まれたての赤ちゃんではなく、歯が生えてくる時期が要注意なんですね。

定着時期についてはたくさん研究がなされていますが、共通して「気をつけて」と言われているのが生後19~31ヶ月。他の時期に比べて危険度が高いため“感染の窓”と呼ばれています。逆に言うと、この時期を過ぎるまでミュータンス菌の感染を遅らせるだけで、その後健康な口腔内が維持しやすくなります。

実践のヒント

ミュータンス菌の感染を防ぐ方法は、大きく分けて3つあります。

  • ①感染源になりがちな家族のミュータンス菌を減少させる
  • ②食事の噛み与え、お箸・スプーンの共有を避ける
  • ③(宿主である)子どものショ糖を制限する

これらを完璧に実践するのは難しいので、できる範囲で行なってもらいましょう。

2.細菌の住処・バイオフィルム

続いて注目するのは、口腔内にミュータンス菌がやってきた後。この細菌は食べ物や飲み物に含まれる糖分を栄養にして暮らします。そして糖分を摂取した後は、「不溶性グルカン」と「酸」を排出。

この不溶性グルカンはネバネバしており、細菌たちが歯面にくっつくのを手助けします。集まった細菌たちはスクラムを組んで膜を張り、あっというまに住処を形成! これがバイオフィルムです。

バイオフィルムがおそろしいのは、その“増殖力”にあります。下の写真は、バイオフィルムの形成の流れを調べたもの(Eはエナメル質)。3日目から厚みがグンと増しているのがわかりますよね。

多くのバイオフィルムは唾液の自浄作用や普段の歯磨きで除去されますが、唾液や歯ブラシが届かずバイオフィルムがたまり続ける部位も。そこは3日目以降細菌数がグンと増えるので、カリエスが進行しやすくなります。意識してケアすることが大切です。

実践のヒント

バイオフィルムが残りやすい部位を把握するのに、欠かせないのが「染め出し」。特におすすめなのが、2色に染まる染色液を使うことです。3日以上そこにいる厚いバイオフィルムを青紫に、最近できた薄いバイオフィルムが赤く染まるので、どこに気を付けてケアしたらいいか明確になります。

3.脱灰と再石灰化のバランス

一方ミュータンス菌から排出された酸は、歯の表面からリン酸カルシウムなど無機質を溶け出していきます(=脱灰)。もちろん、これだけでは歯に穴はあきませんよね。溶け出した無機質を元に戻す力(=再石灰化)が、唾液に備わっているからです。口腔内は脱灰と再石灰化がシーソーのように繰り返されています。

しかし、再石灰化する力があるにも関わらず、カリエスが進行し歯に穴があいてしまう人は少なくありません。ここで注目すべきは、酸が排出されるタイミングです。1日中砂糖入りのコーヒーを飲んでいたら? ダラダラとおやつをつまんでいたら? 次々と酸が排出され、再石灰化が追い付きません。糖分の摂取量や頻度のチェックも、カリエス予防には欠かせないのです。

4.一人ひとりの原因にフォーカス

カリエスプロセスを見ていくと、歯が溶けるまでにさまざまな要因が絡み合っていることがわかります。ミュータンス菌、バイオフィルム、糖分の摂取頻度、唾液の量や質、そして歯質や歯並び……。

健康な歯を守っていくために必要なのは、数ある要因のなかから“その人にとって何が一番の原因か”を探ることです。

では、どうやってその人の原因を突き止めるのか? 病院では、問診や触診だけでなく血液検査や尿検査、レントゲン撮影などを行なったうえで治療に進みますよね。歯科医院でも必要なのがこれ! 問診や染め出しだけではわからない、目に見えないリスクを探ることが大切です。

実践のヒント

目に見えないリスクを可視化できるのが、だ液検査。ミュータンス菌やラクトバチラス菌の量、唾液の質&量など、口腔内をチェックしただけではわからないリスクを知ることできます。さらに染め出し、食生活アンケートを行なえば、口腔内に残っているバイオフィルムの量や糖分の摂取頻度も判明。何が原因でむし歯になっているのか知るヒントになるのです。

おさらい

  • むし歯は人から人へ移る“細菌感染症”である
  • バイオフィルムは3日目から急増する
  • 口腔内だけでなく、酸の出るタイミングに注目
  • 一人ひとりの原因にフォーカスすることが予防の第一歩
参考文献

ペール・アクセルソン『本当のPMTC その意味と価値』

関山牧枝『むし歯と歯周病の病因論』

ベンクト・オロフ・ハンソン/ダン・エリクソン『トータルカリオロジー』

発行元はすべてオーラルケア