患者が求める真の歯科医療を追求 ロバート・F・バークレー

1960年代、治療黄金期のアメリカでたった一人「予防」へと方向転換したのが、歯科医師のロバート・バークレー。彼の考える「予防」は、単にむし歯や歯周病を防ぐことを超えて、「患者さんの一人ひとりが、生涯にわたって自分らしく生きること」を目指していました。そんなバークレーの考えや行動が、今のアメリカの予防歯科の礎となっています。

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1.治療から予防へ舵を切る

1957年、バークレーは故郷であるイリノイ州で歯科医院を開業しました。大学で学んだことを活かし高度な治療を実践していましたが、だんだんと「このままでいいのか?」と疑問を抱きます。

以前治療したはずの患者さんの歯に問題が見つかる。
治療が高度になると治療費も高くなり、受けられる人が限られてくる。
高額な治療費を払った人でさえ、いずれ再治療することになるのでは……?

そうしてある日、こう決心するのです。

「現状維持のほうが、抜歯をして義歯をするよりも低コストになるようにしよう。私のクリニックでは、歯を抜かずにおくほうが抜いてしまうよりも安くつくようにしよう。予防のほうが得になるようにするのだ」

2.患者の健康に対する責任感を育む

予防の道を歩み始めたバークレーは、「本当に歯を守っていくには、患者さんが適切なセルフケアを続けること」が大切だと考えました。しかし、当時の人々はあくまでも治療を求めに来院しています。ただ「口の中を清掃する方法を教えます」と言っても、納得してもらえないでしょう。

患者さんの意識を変えるにはどうしたらいいのか。バークレーは心理学や哲学、マーケティングなどの本を読み、人間の心理や行動を勉強しました。そして「人が意欲的に行動するのは、誰かに言われたときではなく自分が必要だと思ったときだ」と知ったのです。

この考えは、試行錯誤の末『5日間のセルフケア集中プログラム』という形で歯科界に紹介されました。

  • 健康な歯の価値を説明するのではなく、質問によって本人に考えてもらう。
  • 適切なケアによって口腔内が変わる喜びを体験してもらう。

など、患者が自分の意志で健康を守っていけるよう、“心”に働きかける工夫がなされています。

歯科医療者たちは、この新しい関わり方に魅了されました。治療を繰り返すことで徐々に口腔内が崩壊していく患者さんの様子に、ひそかに胸を痛めていたからです。これを機に、アメリカでは予防の概念が急速に広まっていきました。

(参考)プロフィール

Robert F. Barkley
ロバート・F・バークレー

アメリカの歯科医師。1957年、イリノイ州にて開業。当時主流だった治療メインの歯科医療に疑問を抱き、ハロルド・ルーやパンキーらの影響を受けて予防へ転向。患者と共に結果を見て共に診断する『Co-Diagnosis』を開発。著書に『成功した予防歯科医療』がある。