国民にとって歯科衛生士が必要不可欠な存在に ブリギッタ・ニーストレン

スウェーデンで歯科衛生士といえば憧れの職業。資格保持者のほとんどが現役で働き続けています。しかし約50年前まではそれほどポピュラーな職業ではなかったとか。その歴史を変えた一人がブリギッタ・ニーストレン女史です。

index

1.国の方針で予防歯科がスタート

1960年代まで“むし歯洪水時代”だったスウェーデン。多くの国民が「歳を取れば歯は悪くなるもの」と思っており、診療も「治療」が中心でした。

転機が訪れたのは1970年頃。医療費削減のために国が予防歯科をスタートさせ、歯科衛生士の働き方が変わったのです。

「それまでの歯科衛生士は“医院の一スタッフ”という感じ。それが急に“口腔衛生状態を維持するために何ができるか”まで考えるようになったんです。かなり試行錯誤したのを覚えています。」

歯を守っていくために何ができるのか。主体的に考えて患者さんと関わるようになったブリギッタ女史は、“歯ブラシ1本だとどうしても磨き残しができてしまう”ことに気付きます。

2.リスク部位に重点を置いたTBI

そこで、患者さんが家で自分のリスク部位をケアできるように、4つのポイントを押さえてTBIを行ないました。

① リスク部位を把握し伝える

「リスク部位を伝えるのは最重要ポイント。だからリスク部位を把握することは絶対に必要です。それによって、私たちが選択する道具も変わります。分岐部や舌傾斜・最後臼歯遠心にもワンタフト、スペースがあれば歯間ブラシ、ブラッシングの状態に合わせて超音波を指導することもあります。もしリスク部位を伝えずに、患者さんに理解もされていなければ、ブラッシングをやりすぎて擦過傷になってしまうからです」

② 伝えたいことは必ず紙に書いて渡す

「必ず鏡の前で指導をします。最初から多くの情報を与えないように、伝えたことは必ず紙に書いて渡します。次回来院時には、前回の内容をきちんと確認してフォローアップし、再教育・トレーニングします。また、その患者さんのデータや資料(レントゲンやポケットチャート)を活用していまの状況を伝えられるように工夫しています」

③ 患者さんにできるだけ話してもらう

「指導というとどうしても私たちから話すイメージがありますが、患者さんにできるだけ話してもらってコミットさせることがポイントです。患者さんのリスク部位を把握しておくことも必要ですが、口腔内にばかり注意を払ってはいけないと思います。患者さんそれぞれにブラッシングの仕方や意味が違いますから、口腔内だけではなくその患者さんの状況まで診ておく必要があります」

④ 使いやすい道具を一緒に選ぶ

「どの道具が患者さんに合うのか、患者さんに一番合うものを選択し、それを患者さんに説明し、話し合って実際に使用するものを決定します。患者さんに合うものを一方的に選ぶのではなく、患者さんと一緒に決めていくんです。日本では、歯ブラシ1本で指導する傾向があるようですが、とくに根面・CEJ・分岐部などいろいろな条件をもっている高齢者には、歯ブラシ1本で磨くことは不可能に近いです。わたしたちは患者さんの口腔内の状況を十分に把握しているからこそ、その患者さんに合わせて適切なものを選ぶべきです」

4.歯科衛生士が必要とされる理由

リスク部位に注目したTBIのおかげもあって、少しずつスウェーデン国民のむし歯罹患率は減少。さらに、歯や歯肉の健康を維持することで“全身の健康や気持ちにも影響する”と考えられるようになりました。

「歯科衛生士との関わりを通して、口腔内だけでなく体も健康でいられる」
「歯の健康を維持できると人生が楽しくなる」

こうした意見を受けて、ブリギッタ女史は言います。

「口腔内以外の環境に目を向けたり小さな変化に気づけるのは、患者さんとの距離が一番近い歯科衛生士にしかできないことです。メインテナンスに通うことで、体の健康や精神面まで支えられている。そう感じてもらえたからこそ、私たちの存在価値が認められるようになったのではないでしょうか」

歯科衛生士がいれば、いつまでも元気でいられる。その価値を生み出したことが、国民からの信頼を上げたのです。

(参考)プロフィール

Birgitta Nyström
ブリギッタ・ニーストレン女史

スウェーデンのマルメ大学歯科衛生士学校を卒業後、アクセルソンが開業する予防歯科クリニックに勤務。30年にわたる長期研究にも携わり、世界で初めてPMTCを行なった。

参考文献

ペール・アクセルソン『本当のPMTC その意味と価値』
発行元 株式会社オーラルケア