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本シリーズ3回目となる今回は、訪問診療で活躍するDHの登場です。4年前から訪問診療に携わってこられたDHの大和さんは、委員の専用車で患者宅を廻り口腔ケアを行っています。自分ひとりで訪問し患者さんやご家族に対応する姿は、まさに自立するDHそのもの。来年からは介護予防に口腔ケアが加わり、訪問診療に取り組むDHはますますふえていくことでしょう。 |
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―大石歯科の訪問診療への取り組み状況を教えてください
十数年前から、近くの病院と老健施設で訪問診療を行っていました。4年ほど前に、そこの患者さんで肢体不自由の方が「歯肉が腫れて出血する」という主訴で来院されたことがありました。その方の主訴を改善するための口腔ケアをお手伝いしたいという思いがきっかけとなり、本格的に訪問口腔ケアに取り組むようになりました。
―口腔清掃だけでなく、食べる機能の回復も大切な仕事のようですね
加齢による機能の低下や、疾患による摂食・嚥下障害は避けられません。口腔ケアを通じてお会いする方のほとんどが、安全に食事をすることに何らかの問題をかかえています。口腔内を観察したり、会話をしていくうちに早く問題に気づいてあげることが重要だと思います。必要であれば、機能評価をして、食べる機能の回復や維
持を試みたり、食環境や栄養の話まで幅広いアプローチが大切だと考えています。
―診療所と訪問診療の口腔ケアでは、どこが一番違いますか?
まず、対象となる方の状態が違うということがあります。それから、来院できる方は自らの意志で足を運んでくださいますが、訪問診療の場合はご本人の意志とは関係なく行くこともありますので、そのあたりのモチベーションが難しいですね。
私が大事にしているのは、口腔ケアに対する知識や技術以上に、患者さんとの関わり方です。口腔ケアを通じて関わる方々に“関わられる喜び”を感じていただけるように努めています。
―これまで印象に残っている患者さんはいらっしゃいますか?
わたしが初めて在宅口腔ケアを担当した、Nさんという方のことが印象に残っています。Nさんは脊髄小脳変性症という難病で、医師から治らない病気と宣告されたことに大きなショックを受けて、非常にネガティブな状態でした。他院からの紹介で介入することになったのですが、「わたしは何をしても治らないからいい」と、近づくことも拒否されていました。
そこでまずは、歯を磨いてもらうと気持ちよいという感覚を知ってもらうことから始めていきました。それから徐々に口腔機能の回復にも入っていき、次第に気持ちもポジティブになってきてくれて、すべてが順調に経過しているように思えました。 そんなある日、Nさんは開口一番に「聞いてもらいたいことがある」と訴えかけてきたのです。お話の内容は、他人が決めたケアへの不満でした。自分がかかる病院も、薬局も、サービス先も、利用者である自分が決められないのはおかしいといいます。言語障害があるにも関わらず、1時間近くかけて切実に訴えてこられたのです。 きっとNさんは病床のなかで、ずっと自分の想いを誰かに聞いて欲しかったのだと思います。心の重荷をおろされホッとされたためでしょうか、「口腔ケアはあなたにお願いしたいから、これからも来てね」とおっしゃってくださいました。それは、Nさんとの関わりのなかで、本当に心が通じた瞬間でもありました。しかし残念なことに、その夜、Nさんの容態は急変したのです。次の訪問を待たずに、天国へと逝かれました。 「病は気から」といいますが、「気持ち」や「気力」といった目に見えない力に、人の命は支えられているのではないでしょうか。これ以来わたしは、どんなときでも患者さんの声に耳を傾けること、気持ちに寄り添ってあげること、生きる力を支援していくことなど、相手を思いながら関わることを大事にしています。
―認知症の方などは、コミュニケーションをとること自体が難しい場合もあると思います。どんなアプローチをされるのですか?
例えば、寝たきりになって口から食べられないような状態になって、何が人生の生きがいになるか、何が楽しみになるか、ということがあるかと思います。もっと元気なころであれば、食べることとか、外出や散歩することとか、いろいろ楽しむことができたはずです。それがだんだん体が動かなくなると、最後に何が生きがいや楽しみになるかというと、心と心の通じ合いになってくると思います。
ですから、認知症がすすんで何もわからなくなっても、ニコニコして話しかけてくれる人が来てくれたり、ターミナルケアに入ってもご家族やケアする人の声を届けるというのは、とても大切なことではないでしょうか。寝たきりのターミナルケアの状態で、なんの意思表示もできない人が、家族の声かけで少し体が動いたりすることがありますよね。仮に声が届いていなくても、触れ合ったぬくもりが伝わってくるかもしれません。それが、その人の唯一のコミュニケーションになるのなら、そういう喜びを与えてあげることは意味のあることだと思います。
―在宅はもちろん病院や施設も含めて、訪問診療は衛生士の可能性を広げるものだと思いますが、いかがですか?
現在も診療室では予防業務を主に行っています。訪問口腔ケアは、その応用編だと考えています。基礎をしっかり身につけておけば、技術の面に大きな差はみられないでしょう。でも、大きくは歯科医師の指導のもととはいえ衛生士単独で訪問して、患者さんやご家族、その他介護に携わる方に対応しているわけです。その分、信頼を得る難しさや、責任の重み、いろいろなことに対応しなければならない厳しさもありますけれど、難しいからこそ大きなやりがいを感じられます。
また、2000年から介護保険が始まり、そして来年からは介護予防に口腔ケアが入ってくるので、これからさらに歯科衛生士の役割が大きくなってくると思います。
―大石歯科さんの属する千葉県柏市の歯科医師会では、訪問診療のできる歯科衛生士の養成に力をいれているそうですね
平成19年度には柏市総合的保健医療福祉施設が完成し、その中に摂食嚥下外来や障害者の予防歯科を作る予定になっています。それに向けて、摂食嚥下障害を診られる歯科医師や、訪問で口腔ケアのできる衛生士を育成するために、今年度から本格的に研修会を開いています。
現在は月に2回研修会があり、1回が他職種を含めた研修会で、もう1回は衛生士と歯科医師の訪問口腔ケアの研修会です。
―重い病気の方や痴呆がある方の口腔ケアは、やはり他職種との協力関係が必要なのですね
いま、訪問歯科診療をされている方が一番苦労されているのは、その辺りだと思います。いろいろな専門家と協力すれば、もっとよい成果が出せるはずですが、チーム医療、チームアプローチというのがなかなかできていません。わたしも
栄養士や理学療法士に相談したいこともありますが、なかなかお話しする機会が得られないというのが現状です。よくいわれることですが、他職種との連携はどうしても必要だと思います。
―最後に、大和さんはこれからどんなことを学んでいきたいと思いますか
訪問口腔ケアを始めてみて、自分がいままで医療としての視点でしか見てこなかったことに気づかされました。福祉や介護の視点と医療の視点は温度差がありますので、そういった介護福祉の精神であったり、そのための技術を勉強しなくてはならないと思っています。あとは、介護保険の内容にしかり、全身の疾患にしかり、口腔のことだけ知っていればいいということはないですから、学ばなければならないことはいくらでもありますね。
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